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スコープ1・2・3とは?中小製造業が知るべきGHG排出量管理の完全ガイド

はじめに:中小製造業にとってのGHG排出量管理

気候変動対策として、企業による温室効果ガス(GHG)排出削減が世界的な潮流となっています。特に2050年カーボンニュートラルに向けた動きの中で、中小企業も無関係ではいられない状況が生まれています。

大手企業がサプライチェーン全体でのCO2削減や排出量開示を取引先に求める動きが高まっており、中小企業にも対応が求められる場面が増加しています。政府のカーボンニュートラル政策や省エネ規制の強化に加え、取引条件として環境対応を求められるケースも出てきました。

本記事では、中小製造業のサステナビリティ担当者がまず理解すべき「スコープ1・2・3」について、制度的背景から実践的な対応策まで、分かりやすく解説します。

スコープ1・2・3の定義:国際基準GHGプロトコルとは

GHGプロトコルは、企業や組織の温室効果ガス排出量を算定・報告するための国際共通基準です。1998年に世界資源研究所(WRI)と持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)によって策定され、事業活動に伴うGHG排出量を3つの「スコープ」に分類して算定する枠組みを定めています。

スコープ1:直接排出

事業者自らの活動で直接的に生じるGHG排出を指します。具体的には、自社工場でのボイラーや焼却炉などの燃料燃焼によるCO2排出、工業プロセスで発生するCO2やメタン、会社所有車両からの排出などが該当します。要するに、自社が燃料を燃やしたり化学反応を起こしたりして出す排出がスコープ1です。

スコープ2:エネルギー起源間接排出

自社が使用する電気や熱・蒸気などを他社から購入したことによる間接的なGHG排出です。典型例は工場やオフィスで使う電力で、電力自体は自社で燃やしていなくても、その電気を作る発電所で石炭やガスが燃焼されCO2が出ています。つまり「買ったエネルギーに伴う排出」がスコープ2です。

スコープ3:サプライチェーン排出

自社の活動に関連するが、自社の直接管理範囲外で生じるGHG排出を指します。原材料の調達から製品の物流・販売、使用、廃棄・リサイクルに至るまで、バリューチェーン全体で発生するGHGが対象です。

GHGプロトコルではScope3排出量をさらに15のカテゴリに細分しており、購入した原材料の製造時排出、製品輸送、従業員の出張・通勤、製品使用時の排出、廃棄処理など、詳細な項目に分類されています。

企業の総排出量は「Scope1 + Scope2 + Scope3」で表され、多くの企業ではScope3が全体の7割以上を占めることが分かっています。

日本における制度的背景:温対法と省エネ法の動向

温対法による報告制度

日本では京都議定書を受けて制定された温対法(地球温暖化対策推進法)に基づき、一定以上のGHGを排出する事業者に毎年、自社の排出量算定・国への報告が義務付けられています。

2006年4月から始まった「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)」では、対象事業者はエネルギー起源CO2およびその他GHGの年間排出量を算定し提出します。提出情報は政府により集計・公表される仕組みです。

温対法はGHGプロトコルがサプライチェーン全体まで対象とするのに対し、「自社から出るGHG」を対象とする点が特徴です。2021年の温対法改正では、上場企業に対し有価証券報告書でのGHG排出量開示が求められるようになるなど、法制度と開示の連携も強まっています。

改正省エネ法の影響

工場や事業所のエネルギー管理を義務付ける省エネ法も、近年の改正で脱炭素の観点が強化されています。2023年度施行の改正では、新たに再生可能エネルギーの導入促進も目的に加わり、今まで集計対象外だった再エネ由来エネルギーも管理対象に含めるよう変更されました。

一定規模以上の事業者には、使用エネルギーの非化石エネルギーへの転換や報告頻度の見直しなど、脱炭素に向けた取組強化が求められています。

非財務情報開示の圧力

法制度以外にも、投資家や取引先からのESG・サステナビリティ情報開示要請が強まっています。CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)といった国際的な枠組みにより、サプライヤーにも協力要請が届くケースが増えています。

日本の上場企業の7割超が気候変動リスクやGHG排出量情報を開示しており、東京証券取引所プライム市場ではTCFD開示が事実上必須化されています。経済産業省の調査では、取引先から脱炭素対応を求められた中小企業が約12%に上っており、今後この割合はさらに拡大する見込みです。

中小製造業が取るべき具体的対応

まずは現状把握から

第一歩は自社のGHG排出量の現状把握です。スコープ1(燃料使用等)とスコープ2(購入電力等)であれば、中小企業でも比較的データを集めやすいはずです。

具体的には、燃料使用量や電力使用量の年間合計を調べ、それに政府公表の排出係数を掛けることでCO2排出量を算出できます。環境省や自治体、民間から中小企業向けの簡易計算ツールも提供されており、完璧を目指しすぎず、まず概算でもいいので自社の排出全体像を知ることが肝心です。

スコープ3への挑戦

可能であればスコープ3にも目を向けることをおすすめします。事業内容によって主要な排出源はある程度絞れ、製造業であれば「原材料の製造時の排出(カテゴリ1)」や「製品出荷時の物流(カテゴリ4)」などが大きくなる傾向があります。

環境省が排出原単位データベースを無料公開しており、「原材料費×該当業種のCO2排出原単位」からおおまかなカテゴリ1排出量を推計する簡易算定が可能です。まずは主要なScope3カテゴリだけでもざっくり見積もることで、自社のサプライチェーンでどこにCO2排出が多いか見えてきます。

義務対象かどうかの確認

中小製造業でエネルギー使用量が特に大きい場合は、省エネ法や温対法に基づく届出・報告義務の対象になっている可能性があります。その場合は経営者やエネルギー管理担当者と相談し、法定のエネルギー管理・報告を適切に行うとともに、報告書のデータを自社のGHG管理にも活用しましょう。

よくある誤解を解消:Q&A形式で理解を深める

Q1: Scope3は自社の排出じゃないから関係ない?

A: Scope3は確かに自社以外の活動で発生する排出ですが、自社のビジネスと無関係な排出ではありません。多くの企業ではGHG排出量の7割前後がScope3で占められており、Scope1・2だけでは自社の環境負荷の一部しか見えていないことになります。

取引先や最終消費者から見れば、「その製品の排出量」はScope3も含めたトータルです。サプライチェーン全体での脱炭素が重視される時代において、まずは影響の大きい部分だけでも把握し、可能な範囲でサプライヤーや顧客と協力して削減を検討することが重要です。

Q2: 電気しか使ってないから排出ゼロに等しい?

A: 購入した電力の利用は立派なスコープ2排出に当たります。電気の先には必ず発電所があり、特に日本では火力発電に依存する割合が高い現状では、電力使用由来のCO2排出量は小さくありません。

例えば1kWhの電力消費に伴うCO2排出は国内平均で約0.45kg前後です。工場全体で年間100万kWh使えば、およそ450トンものCO2になります。「見えないだけで排出している」という意識が重要です。

Q3: 法律で義務付けられた大企業だけやればよい?

A: 法規制上は中小企業への強制力は限定的ですが、取引環境が実質的な圧力となっています。大企業の多くがサプライチェーン全体の脱炭素目標を掲げ、取引条件として排出情報の開示や削減計画の提示を求める例も増えています。

対応しなければ、将来受注競争で不利になったり、金融機関からの融資でマイナス評価を受けたりするリスクもあります。先んじて取り組むことで「環境に配慮した企業」として顧客や地域から評価され、競争優位を得るチャンスでもあります。

実践に役立つツールと相談先

無料の算定ツール

日本商工会議所が提供する「CO2チェックシート」は、中小企業が使いやすいExcelベースの無料排出量計算シートです。燃料・電力などエネルギー使用量を入力すると年間CO2量を算出できます。

川崎市などの自治体も独自にExcelの排出量計算ツールと丁寧な使い方マニュアルを無料公開しています。民間では、クラウド上でエネルギーデータを入力・管理し、自動でGHG排出量や削減シミュレーションを提示してくれるサービスも登場しています。

専門家による支援

中小企業基盤整備機構(中小機構)は全国の中小企業を対象に無料相談を実施しており、希望に応じて専門家を派遣するハンズオン支援も可能です。

省エネルギーセンターの「省エネ最適化診断」では、専門家チームが工場やオフィスを訪問し、エネルギーの無駄を徹底診断するサービスを提供しています。結果的にCO2排出削減にも直結するため、より専門的な改善を目指す企業におすすめです。

各都道府県の地球温暖化防止活動推進センターや商工会・商工会議所にも相談窓口があり、地域の実情に応じた支援を受けることができます。

脱炭素×コスト削減×地域貢献の実現

エネルギーコスト削減による経営改善

排出削減策の多くはそのまま省エネによるコスト削減につながります。あるプラスチック成形工場では、工場屋根に太陽光発電パネルを設置し生産プロセスを見直した結果、電力使用量を22%削減し年間約300万円の電気代節減を実現しました。

別の中小企業では、エアコン室外機フィン清掃や照明LED化、休日のコンプレッサ電源オフ徹底といった低コスト施策でエネルギー消費を8%削減し、年間約182万円の光熱費削減を達成しています。

環境評価による企業価値向上

脱炭素に真剣に取り組む企業は、取引先や金融機関だけでなく地域社会からも高く評価される傾向があります。地元自治体の環境表彰やエコ関連の認定制度に選ばれることで、行政や金融機関、取引先からの信頼度が増し、入札や商談でも有利な評価を得やすくなります。

横浜市の「地域貢献企業認定」制度では、脱炭素の取組が地域貢献活動の重要項目として高く評価されており、認定を受けた企業は求職者や従業員からの共感も得やすくなっています。

地域課題の解決への貢献

工場の屋根に太陽光パネルを載せて近隣に電力を供給する地産地消エネルギーのモデルや、事業所のEVを災害時に地域の非常用電源として開放するといった取組も広がっています。

企業と地域住民・団体との連携が深まれば、環境以外の課題でも協力し合える関係構築につながります。環境経営に熱心なこと自体がブランド価値向上につながり、結果的に新たな商機を呼び込む可能性があります。

まとめ:第一歩は理解から行動へ

スコープ1・2・3という概念は、要は「自社とその周辺を含めて、どこでどれだけGHGを出しているかを把握し、減らす努力をする」というシンプルな考え方です。気候変動対策は待ったなしの課題ですが、それを自社のチャンスに変えることもできます。

まずは自社のスコープ1・2の排出量を測ってみることから始めましょう。可能なら主要なスコープ3も概算してみて、社内で「どこから手を付ければ効果が大きそうか」を議論してみてください。

国や自治体、支援機関が豊富なツールや相談サービスを用意しています。それらを遠慮なく活用し、社外の知見も取り入れながら計画づくりを進めてください。小さな改善の積み重ねがやがて大きなCO2削減につながり、それが自社の競争力強化や地域の持続可能性向上にも直結します。

中小製造業の皆さんの知恵と行動力で、「脱炭素×コスト削減×地域貢献」の好循環を生み出していきましょう。あなたの一歩が、未来の標準を作ります。

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